労働問題を早期解決するなら労働問題SoftLanding(ソフトランディング)東京・神奈川・埼玉・千葉対応 特定社会保険労務士のあっせん代理

HOME » 個別労働関係紛争の実態 » 変更した就業規則の有効性 | 労働問題SL@東京・神奈川・埼玉・千葉

変更した就業規則の有効性


 
今回は、固定残業代制を導入して変更された就業規則が有効かどうか争われた事例を見てみます。

有効なら従業員は、固定残業代の範囲内に収まる時間外労働に対する割増賃金を失うことになり、無効なら会社は、未払い残業代を従業員に支払うことになります。

概要

発端は、会社に労働基準監督署の調査が入って、時間外労働に対する割増賃金を支払っていないという指導勧告を受けたことです。

「全員の残業代を清算したら経営を圧迫する」と考えた会社は、これまで支給してきた諸手当(職務手当、物価手当、現場手当、外勤手当、工場手当等)を同額そのまま残業代相当とする固定残業代制を創出して、就業規則を改定しました。

(補足1) 固定残業代制とは、○時間分かの時間外労働に当たる割増賃金(つまり残業代)を毎月決まった金額として支給することです。実際の時間外労働が、最初に決めた「○時間分」に満たない場合も減額することはできません。一方で、残業をしてもしなくても一定額の残業代が支給されることから“ダラダラ残業”を抑制する効果などが期待できます。

固定残業代制を取り入れるということは、給与体系の変更を伴うもので、就業規則の改定手続きが必要になります。そして改定した就業規則には、投票や挙手などの方法で選出された従業員の過半数代表者の意見書を添付して労働基準監督署に提出します。

従業員Xら(5名)は、固定残業代制は従来の諸手当が固定残業代に振り替えられるという労働条件の不利益変更(賃下げ)であって自分達は同意していない、として未払い残業代を請求しました。

会社が行った就業規則の改定手続きは、次の通りです。

  1. 固定残業代制の創出に際し、全従業員に算出方法を例示して繰り返し説明し、質疑応答を行って全員から同意を得た。
  2. 従業員代表者の選出には、挙手や選挙は行っていないが、長年の慣行で代表者になってきた係長が、全従業員の賛成を確認して異議がない旨の意見書を作成した。
  3. 係長は、経営には全く関与していないし、団体交渉に当事者として出席したことはなく管理監督者ではない。

上記事例は、サンフリード事件(長崎地裁 平成29年9月14日判決)です。

このような改定手続きを経た就業規則によって、Xらは変更後の労働条件に同意したことになるのでしょうか。

結論から言うと、上記意見書があるからといって、従業員Xらが労働条件の変更に同意したとは認められませんでした。その他の考慮すべき事情を含めて、固定残業代として支給されてきた手当は残業代には当たらず、会社に対して、未払い残業代の支払いが命じられました。

(補足2) 就業規則の改定に従業員の同意は必ずしも必要ではありません。この事案において同意の有無が争点となった理由は、まず固定残業代制導入が労働条件の不利益変更にあたるということ、そして「使用者は労働者と合意することなく就業規則を変更することにより、労働者の不利益に・・・労働条件を変更することはできない(労働契約法第9条)」からです。

背景

会社は、訴訟の前の労働基準監督署の勧告に対して、諸手当が時間外手当であるという説明をすることなく、勧告に従い割増賃金を支払いました。

固定残業代制について会社代表者が自ら従業員に説明したこともなく、「従来の給与規定に定められた諸手当は、実質的に時間外手当であった」という会社側の主張は退けられました。

固定残業代制の説明を受けた従業員Xらは、手当の名目が変わるだけで不利益変更とは理解していませんでした。

従業員側から見たコメント

過半数代表者の選出方法について、この判例が出た当時の労働基準法施行規則第6条の2第1項では、代表者を選出することを明らかにして実施される「投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であること」とされていました。

平成31年4月からは、さらに「使用者の意向に基づき選出された者でないこと」と追記されます。会社の手続きを注意深く観察して頂きたいと思います。

会社側からみたコメント

事例の会社のように「全員の残業代を清算したら経営を圧迫する」との発想から、固定残業代制を導入する例は多くあります。

近頃は特に、働き方改革関連法の平成31年4月施行を受けて、人件費増回避のために固定残業代制を検討されている企業も多いのではないでしょうか。

固定残業代制は正しく運用する限り違法ではないのですが、その導入プロセスが重要なのです。

使用者が不利益変更に触れることなく「手取りは変わらない」ことを強調するなど、従業員の同意を得ることに注力してトラブルに発展する事例が後を絶ちません。

上記補足2の原則に対して、合意がなくても、変更後の就業規則が合理的なもの*であるときは、労働条件も変更後の就業規則に定めるところによる、という労働契約法第10条を根拠に、安易な就業規則の改定はおすすめできません。

従業員が本当に理解して合意できるような使用者による説明のプロセスが後のトラブルを予防し、従業員のモチベーション維持にもつながります。

*:合理性の判断要素には、「労働者の受ける不利益の程度」、「労働条件の変更の必要性」、「変更後の就業規則の内容の相当性」、「労働組合等との交渉の状況」、「その他の就業規則の変更に係る事情」などが例示されています。

お問い合わせはこちら

特定社会保険労務士・行政書士 濱本事務所
代表 濱本志帆
東京都世田谷区玉川4-12-16-H610-201号室
tel:03-6356-7299 fax:03-6315-9599
Email:info@adr-sr.com
お電話受付時間 平日10時から19時

powered by 行政書士アシストWEB / 行政書士向けビジネスブログHP作成 / smartweblab