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パワハラ係争中の誹謗中傷

今回は、パワハラで休職に追い込まれた従業員が会社を訴え、その訴訟係属中に従業員が会社のことを「ブラック企業」とネット上に拡散した事例を見ていきます。

概要

 労働者Xは、広告の企画制作会社Yで幹部社員M、派遣社員Nと3名体制で広告制作業務に就いていました。

 1年後、Xの業務負担が増し、残業を注意されたXは日報にうその労働時間を記録するようになり、それが上司に知られ、さらに叱責を受けることになりました。そこから叱責は様々に及びXは体調を崩して休職、賃金未払いやパワハラの損害賠償を求めて提訴しました。

 その係争中、Ⅹは、FacebookやTwitter上で会社を名指しで「ブラック企業」と投稿、会社側はネット記事の削除要請に留まらず、Xの訴訟行為自体を非常識であるかのように非難する文書をXに送付しました。

経緯

サービス残業

 労働者Xは、採用時にY社から「残業代を出していないが大丈夫か」と尋ねられ、Xも以前の勤務先で同様の状況だったので「大丈夫です」と答えていました。

パワハラ

 労働者Xの残業は、幹部社員Mが定年退職して、後任の丙川がきて業務の割り振りが変わった頃から増え始めます。退職したMの担当案件がXに降りかかり、丙川自身は、持病のため定時退社し、派遣社員Nは残業しないように管理されていたので、作業量はXに偏っていきました。

 そのような中で丙川の指導は、「仕事を『ぎゅっと』詰めてやればできる」などという具体性に欠けるもので、残業は減らずに繰り返し叱責を受けました。

 また、丙川は、労働者Xが営業部門に強く言えないために時間外の打ち合わせがあったり、依頼主都合の修正が入ったりすることに不満を持っており、Xに時間外の営業部門との打合せを禁止しました。そのこと自体は合理的なようですが、これは丙川自身が対営業部門との間で克服できなかった問題をただXに指示しただけで、Xは丙川と営業部門との板挟みに遭いました。

 そして丙川からの叱責は、報告・連絡・相談が不十分であるとか、ミスの繰り返しなどに及び、ついには叱責中のXの態度を叱責するという「叱責のための叱責」と化していきました。

休職

 丙川は、Ⅹをミーティングから外し、Ⅹからの報告も受け付けなくなりました。その後、丙川から飲みに誘われたXが「ちょっと考えます」と答えたところ、丙川に「もう誘わん」、「もう知らん」と言われて帰宅したとき、Xは泣きながら「もうだめだ」といい、そのただならぬ様子から、親族が休職させることにしました。

ネット上の情報発信

 訴訟手続きの中で、Y社は、

①復職可能な医師の診断が得られればデザイナーに復帰させること
②丙川には厳重注意をするが職場から排除はせず、業務に必要な範囲の指導のみさせること
③パワハラの有無の確認、防止のための措置をとる

など提案しました。

これに対し労働者Xは、丙川の異動が職場復帰の前提条件であると回答して、その後、FacebookとTwitter上で会社名を出して「パワハラ・長時間労働/賃金未払・不当解雇」と題したページを更新しました。

 これを知ったY社は、Xに対し、ページの削除と懲戒の対象行為に当たるので弁明等があれば文書を提出するよう求める業務指示書(文書3)、さらに「会社にきて何がしたいのか説明して下さい、会社はXを採用したことを非常に後悔しています」という内容の文書4、「(Xの)一連の誹謗中傷ともいえる言動は絶対に許しません」という内容の文書5、「(Xは)理解不能な主張をしていますが・・もういい加減にこの問題に自分なりに決着をつけ・・今後の人生を前進的なものにしていただきたい」という内容の文書6を送付しました。

 Xは、懲戒処分が強行された場合の負担を考えて、自主的にネット上の記事を削除しましたが、謝罪する意思はないという意見書をY社(代理人)に送付しました。

結果

この事例は、プラネットシーアールほか事件(長崎地裁平30.12.7判決)です。
 まず、未払い賃金やパワハラの慰謝料等は認められました。そして係争中にY社が労働者Xに送った文書5と6についても「(Xを)見下して一方的に非難し、貶めたりするもの」で不法行為を構成するとして慰謝料が認められました。

労働者側コメント

 採用面接時の応募者は就職したい一心で、「残業代は出ないけど大丈夫?」と聞かれるとYesと答えてしまいがちです。しかし、お待ちください。労務管理は会社の従業員に対する考え方が現れます。厳密に限られた場合を除き、残業代を支給しないことは違法です。

 Xが罹患した適応障害は労災の精神疾患基準に認定され、休業補償給付が支給されるようになりました。当事務所が受けたご相談で、「もしこのようなことになったら、どういった補償があるか?」と尋ねられたことがあります。

 上記事例のように、労災に認定されれば療養補償や休業補償が受けられます。しかし、どのような補償があろうとも健康被害があってからでは取り返しのつかないことです。身も蓋もないようですが「自分を一番守ってあげられるのは自分」と捉えて、早い段階でご相談にいらして下さい。

 ところで、会社のハラスメント相談窓口を、せっかく設置されていても利用しない方がいらっしゃます。きちんと研鑽を積んだ担当者がいるハラスメント相談窓口があれば利用をお勧めします。

 その意義は、次のようなところにあります。

 相談者の話したことのうち、オープンにしてもいいこと、相手方行為者には知られたくないこと、他の誰にも知られたくないこと、匿名のまま調査してほしいなど、相談者の希望に沿った対応をしてもらえるからです。

 また、見聞きした事案やその場に居合わせて知った、というように当事者ではないことも相談できます。そうすると相談窓口ではないところで言えば誹謗中傷と取られかねない内容であっても、安全な場所から申告することができます。

 相談窓口は、相談者が望まなければ提供した情報をオープンにはしません(ただし、事実確認において匿名が障害となる可能性はあります)。最近の調査(※1)においても、「二次被害の防止について企業の取り組みに配慮がみられる」と報告されています。

 上記事例のようなネット上で情報発信をする行為には、会社への報復感情が多分に含まれていると考えられます。Xにとっては、そもそも自分が受けた損失の回復を図ったものかもしれません。しかし、上記事例の場合は、結果的にXが処分されることはなかったものの、懲戒処分を受ける可能性はありました。

 実際、「『(Xの情報発信は)会社の信用を毀損する懲戒事由に当たる』とのY社の主張も根拠を欠くものとはいえない」と判示されています。報復感情に支配されて労働者が加害者として処罰を受ける立場になったら、なおのこと報われません。その前にご相談下さい。

会社側からみたコメント

 令和2年6月1日から、パワーハラスメント対策は事業主の義務になりました。(中小企業は令和4年3月31日まで努力義務。ただしセクハラ、マタハラ対策は事業規模に関わらず義務)

 従業員からハラスメント相談があったら、適切な対応をしなければなりません。しかしハラスメント問題はセンシティブで、専門のスキルを持った担当者でなければ初動を誤り、かえって問題をこじれさることが少なくありません。

 相談者が「ハラスメントです」と言ってきたら、実態がどうであれ、まずハラスメント事案として受け付けて傾聴し、調査するとしても相談者の希望に沿って行います。このようなハラスメント問題に対する初動の原則が守られるかどうかで、紛争の行方は違ってきます。

 労働審判、労働局のあっせん調停、民間ADRなど、労働紛争解決手段の選択肢が拡充された背景には、企業内で紛争を解決する機能が弱まり、従業員の苦情が社外に流出するようになったこと(※2)も関係していると考えられます。

 労使間の問題は、社内で解決できれば従業員が退職することもない場合は多いのではないでしょうか。

 上記事例においても、訴訟になってからY社がXに提案した①から③(「復職可能な医師の診断があれば復帰させる~」など)は、ハラスメント相談窓口が対応に当たることでも到達できます。このY社の提案をXは拒絶していますが、もっと早い段階で提案がなされていたら、違う結果の可能性も見えてきます。パワハラかどうか迷うような事案を大事にしたくない場合こそ、当事務所へご相談下さい。

訴訟に発展し、社名が公表され対応に当たらなければならない事業活動への影響とハラスメント対策のコストを見比べて、いかがでしょうか。

 パワーハラスメントは、多くの企業で「企業活動に対する阻害要因」(※1)と認識されています。ハラスメント対策は、人材確保対策の側面を持った投資です。当事務所は、中小企業の具体的な取り組み案をご提案致します。お問い合わせ下さい。

※1:JILPT資料シリーズ No.216「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」
※2:労働政策研究報告書No.98「企業内紛争処理システムの整備支援に関する調査研究」

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