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解雇の意思表示はあったか無かったか

今回は、解雇通知書に「解雇致します」と書いてあるのに、裁判所から「普通解雇の意思表示がされたとは認められない」と言われてしまった事例を見てみます。 

概要

会社は、従業員10人未満の不動産業で、従業員Xは、在職2年弱の営業担当者です。

Xは、役員(社長の息子)が刑事事件で逮捕されたことを、社長が理事を務める業界団体に告発したことで解雇されました。告発は匿名でしたが、社長が名誉棄損罪等で被疑者不詳のまま刑事告訴したので、ほどなくXの行為であることが判明しました。なお、Xは、後に不起訴処分となっています。

社長が従業員Xへ送付した解雇通知書を要約すると次のとおりです。(下線部分は原文のままです)

「○年○月○日より自宅待機を通知いたしましたが、(業界団体に役員の刑事事件について告発した)犯人は正式に貴殿(X)であると判明しましたので自宅待機の○年○月○日付にて解雇致します。

(解雇理由)
① (Xは業界団体の)協会会員でもないのに、協会会員であるかのように虚偽の文章を送付した。
② 協会を混乱に陥れる強要文章(社長の協会理事の辞任要求)をFAXにて送信した。(コンビニFより)
③ 2ヶ月近くに渡り、犯人は自分ではないと思い込ませ、非道な行為をとってきた。

以上の理由により会社及び社員全員の信頼・信用を傷つけたことにより、協会及び会社として○○署に強要罪並びに名誉棄損罪で告訴しております。以上」

従業員Xは、解雇無効で提訴しました。

判決は、会社側に、上記通知書による普通解雇の意思表示は認められず、つまり、労働契約は継続していることになり、その間の給与支払義務が命じられました。

どうしてそうなるのでしょう。

事例は、A不動産事件(広島高裁H29,7,14判決)です。

普通解雇の意思表示が認められなかった理由

解雇の有効性が問われるときは、まず、問題の行為は、就業規則の解雇事由に該当するかどうか、次に、該当するなら、その解雇は相当かどうか、が検討されます。

事例会社の就業規則で解雇事由は次のように定められていました。(抜粋)
  
第4条(解雇) 社員が各号の1に該当するときは解雇する。

(1)社員が故意又は重大な過失によって会社に損害を与えた場合には懲戒処分に処するほか、その損害の全部又は一部を賠償させることがある。
  第14条(懲戒解雇) 社員が次の各号の1に該当する場合は懲戒解雇とする。ただし情状により酌量する場合がある。
(2)刑事上の罪に問われた者で懲戒解雇するのを適当と認めたとき
(3)会社の信用を著しく損なう行為のあったとき

裁判所の判断は、→の部分です。

Xの行為は、懲戒解雇事由(2)に該当するか?
→「刑事罰に問われた」とは、起訴され刑罰に問われた場合のことだから、不起訴処分だったXは該当しない。

Xの行為は、懲戒解雇事由(3)に該当するか?
→「信用を著しく損なう」とは、単に行為だけではなく、実際に重大な損害が生じたか、生じそうだった場合をいうのであって、会社の損害はそこまでじゃない。

だから、懲戒解雇としては無効、ということです。

それでは、普通解雇ならどうなのでしょうか。

Xの行為は、普通解雇事由(1)に該当するか?
→会社の信用を毀損したと認められ、普通解雇事由には該当する。

そこで次の“解雇の相当性”についても、客観的合理的で社会通念上も相当、と認められました。

しかし、会社が従業員を処遇するには、手続きを踏まなければなりません。

事例の場合は、解雇通知書による雇用契約解除の申し入れ(意思表示)です。
→通知書は、懲戒解雇の意思表示だろうとは読めるものの、該当する懲戒解雇事由の条項が示されていないし、懲戒解雇だとすれば上記の通り無効。
普通解雇の意思表示としてみるなら、やはり該当する普通解雇事由の条項が書いていないし、「労働契約の解約申入れにすぎないことを窺わせる記載はされておらず、普通解雇の意思表示が内包されているとは認められない」

つまり、普通解雇の意思表示もあったとは認められない、ということです。

背景

社長は、役員(社長の息子)の不祥事について従業員に謝罪しましたが、役員の処分や事件が新聞に掲載されたことによる顧客対応については触れませんでした。

従業員Xは、前から、自分の売上目標は達成しているし、他の従業員の売上も落ちているようにはみえないのに会社は赤字だと言われ、賞与額が採用時に聞いていたよりも少なかったことから、会社に不信感を持っていました。

従業員側から見たコメント

「会社の姿勢を糾したい」、そのような意図で会社を相手に行動に出る方がときどきいらっしゃいます。

事例の従業員Xは、不起訴処分となって幸いでしたが、会社のために一生ものの失点を負う覚悟があったと読み取ることは出来ません。

Xの行為(業界団体に対して会員を名乗り社長の協会理事辞任要求をFAX送信)は、会社にもっと説明を求めるなどの協議もしないで、「いきなり外部団体に不満のはけ口を求めたもので、著しく相当性を欠く」、と判示されています。従業員Xの「会社にコンプライアンスを求める目的でFAXした」という主張も裁判で退けられています。

会社側から見たコメント

1つの行為について、普通解雇と懲戒解雇、両方の可能性が検討されており参考になります。

この他、事例では、就業規則の周知についても争点となりました。周知していないと就業規則そのものが無効となってしまいます。貴社の就業規則は、社長の机の引き出しに施錠して保管などされていませんか。

また、会社を訴える従業員のメンタリティには、組織への不公正感(「ずるい、納得いかない」など)が少なからずあります。上記事例の賞与が当初提示額より少なかった経緯は不明ですが、従業員に説明できない理由で、事前に提示していた待遇を下げることには、それなりのリスクが伴います。

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